「認知症」と「健忘症」のもの忘れ、決定的な違い認知症予備軍「MCI」の可能性はありませんか パート②

お墓屋さんの豆知識

認知症になるかどうか最後の分かれ道「軽度認知障害(MCI)」についてご存じでしょうか

浦上 克哉 : 日本認知症予防学会理事長・鳥取大学医学部 認知症予防学講座教授
著者フォロー 2023/02/17 11:30

MCIと認知症が異なる点は大きく2つ

MCIと認知症の違い① (現れる症状によって)日常生活に支障をきたすかどうか

MCIと認知症が異なる点は、大きく2つあります。

1 (現れる症状によって)日常生活に支障をきたすかどうか

2 自分がもの忘れなどのミスを繰り返すことを自覚できるかどうか

これは、日常生活を送るうえで、特に支障をきたしていなければMCIで、支障が出てくると認知症、ということです。たとえば、厚生労働省のウェブサイトでは、認知症を次のように定義しています。

認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。

では、日常生活全般に支障が出てくるほど認知機能が低下した状態とは、具体的にどんな状態を指すのでしょうか。その例として、「健忘症によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違いをお話ししたいと思います。

「もの忘れ」は、認知症の代表的な症状(中核症状)の1つですが、認知機能が低下していない若い人であっても、もの忘れをすることはあります。また、誰でも年齢を重ねるごとに忘れっぽくなります。こうした健康な人や加齢(老化)によるもの忘れを「健忘症」と呼びます。この健忘症によるもの忘れと、認知症によるもの忘れには大きな違いがあります。

『もしかして認知症?』

「以前に、どこかで会ったことがある人なんだけど、名前がどうしても出てこない」

「家のカギをどこに置いたか忘れてしまった」

こうしたもの忘れは健忘症によるもの忘れですが、特徴としては、出来事の一部が思い出せないだけで、出来事の全体が思い出せないわけではありません。

これに対して、認知症によるもの忘れは、出来事の全体を忘れてしまいます。例えば、昨日の昼食に何を食べたかをすぐに思い出せないのは、健忘症によるもの忘れです。昼食を食べたことは覚えており、記憶をたどってよく考えたり、何かヒントがあれば、何を食べたか思い出すことができます。

一方、さっき朝食を食べたにもかかわらず、朝食を食べたこと自体を忘れてしまい、また食べようとするのは認知症によるもの忘れです。仕事をしている人であれば、重要な会議に出席しなければならないことを完全に忘れてしまうといったケースは、認知症によるもの忘れが強く疑われます。

スムーズにできていたことに時間がかかるようになったら

これは、今までスムーズにできていたことに時間がかかったりしたときに、「何か違うぞ」と違和感を抱くことができればMCIで、それができなくなると認知症、ということです。例えば、約束した予定を忘れてしまったときでも、「あれ、誰かと約束をしていたような気がするぞ」と、約束をしたこと自体は覚えている場合などは、MCIに当てはまります。

MCIと認知症の違い② 自分がもの忘れなどのミスを繰り返すことを自覚できるかどうか

一方、認知症の場合は「約束をしたこと自体がすっぽりと頭から抜けてしまう」ため、自分が何かを忘れたことさえも自覚することができません。例えば、医療機関で患者さんの問診をしていると、ご本人はあまり困っていないけれども、家族が困って、家族に連れられて来院されるケースがあります。こうしたケースでは、次のような会話が交わされます。

私 「お体の調子はいかがですか? 何か困ったことがありますか?」
本人 「おかげさまで、とっても元気です。何も困ることはありません」
私 「もの忘れはどうですか?」
本人 「もの忘れなんかしていませんよ」
家族 「いえいえ。最近、もの忘れがひどくて、さっき言ったことも忘れてしまうんです」

名前をすぐに思い出せないのは、なぜ?

「以前に、どこかで会ったことがある人なんだけど、名前がどうしても出てこない」のは、認知症によるもの忘れではなく、健忘症によるもの忘れです。

以前に会ったことがある人だとわかるのは、脳の中の「顔を記憶している場所」に記憶があるから。それにもかかわらず名前が思い出せないのは、「名前を記憶している場所」が脳の別の場所にあるからです。もし、脳の同じ場所に顔と名前が記憶されていれば、両方を同時に思い出せるのですが、そうではないため、顔は覚えているけれども、名前が出てこないということが起きます。

脳のデータベースは、整理されていないだけで、記憶自体はしっかり残っています。ですから、何かのヒントで思い出せることもありますし、しばらく時間が経ってから、突然思い出すこともあります。こうしたことからも、記憶自体は脳のデータベースに残っていることがわかります。

これに対して、認知症の人は、やや乱暴な表現であることを承知のうえで言うなら、「脳のデータベースが壊れてしまっている」と言うことができるかもしれません。

もちろん、認知症にも段階や種類がありますから、壊れ方の程度や脳の中のどのデータベースが壊れているかなど、壊れ方は人それぞれです。

ただ、データベースが壊れてしまっていると、ヒントがあっても、時間が経っても思い出すことはできません。

高齢者になればなるほど、名前をすぐに思い出せないのは、これまでに会った人の数が膨大になるためです。脳の中の名前を記憶している場所には、膨大な数の名前が記憶されています。このデータベースがきちんと整理されていれば、すっと思い出すことができるのですが、普通はそれほど整理されていないため、すぐに名前を思い出せないということが起きます。

MCIとはどういう状態かと言えば、脳の中のデータベースの一部が壊れかけている状態です。壊れかけているデータベースの記憶だけが思い出せず、それ以外のことであれば思い出すことができます。しかし、この思い出しにくい、思い出せない記憶が徐々に増えていくと、軽度認知症ということになります。

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