更新日2023年10月18日拡張型心筋症腎不全腎臓胸・心臓肝臓すい臓呼吸器
解説いただいた専門家
臓器提供 日本の現状 臓器移植とは 臓器移植がもたらすもの 海外との臓器提供数の違いはなぜ 課題①「多くの人が意思表示をしていない」 課題②「家族の承諾が必要」 課題③「多くの医師が臓器提供に不慣れ」
臓器提供 日本の現状
日本で臓器移植法が施行されて26年が経ちますが、海外と比べて臓器提供数が極めて
少ない現状に直面しています。
アメリカでは年間約1万4000人が臓器提供を行っていますが、日本は年間100人前後です。
2021年の人口100万人あたりの臓器提供数(脳死後と心停止後死後の提供)で比較すると、
アメリカは100万人あたり41.6例、スペインが40.8例なのに対し、日本は0.62例です。
同じアジアの国である韓国の8.56例、中国の3.63例と比べても、日本の臓器提供数の
少なさが際立ちます。
では、日本には臓器提供に慎重、あるいは否定的な意見が多いのかというとそうではありません。
内閣府が行った世論調査によると、「自分が脳死または心停止し、死亡と判断された場合に臓器提供したいかどうか」たずねたところ、およそ4割の人が「臓器提供したい」と答えました。
この結果から、臓器を提供したいという意思が十分に生かされていないという課題が
見えてきたのです。
臓器移植とは
臓器移植とは、病気や事故によって臓器の機能が低下した人に他の人の臓器を移植し、
機能を回復させることです。
臓器移植の対象となるのは、心臓・肺・肝臓・腎臓・すい臓・小腸、そして臓器ではありませんが
眼球です。
臓器を提供する方法としては「健康な人からの臓器提供」(生体移植)、「脳死後の臓器提供」と「心停止後の臓器提供」があります。
日本では「健康な人からの臓器提供」(生体移植)が多く、腎臓の臓器移植の9割、肝臓移植の8割が生体移植です。
生体移植の多くは家族・親族から臓器を提供してもらうケースであり、移植の同意が得やすいため多いのだと言われています。
しかし、生体移植には、健康な人から臓器を取り出すという大きなリスクが伴います。
また、心臓・すい臓など生体移植できない臓器もあります。そのため、「脳死後」および「心停止後」の臓器提供が必要になります。
「脳死後」および「心停止後」の臓器提供を合計した数の推移を見てみると、臓器移植法の施行から26年経ちましたが、約100件前後で推移していて、ほとんど増えていません。
内訳には変化があり、当初は心停止後の臓器提供がほとんどだったのに対し、最近では脳死後の提供件数が大部分を占めています。
これは1997年の臓器移植法施行当初、脳死後の臓器提供の条件が厳しく、少なかったためだと考えられています。その後2010年に法改正が行われ、本人の拒否の意思がない場合は、本人の意思が不明であっても、家族の承諾で脳死判定と臓器提供ができるようになりました。
それによって、脳死後の提供件数が増えています。
「脳死後」と「心停止後」では、提供可能な臓器に違いがあります。「心停止後の臓器提供」では心臓停止後に手術室に向かい、臓器の摘出手術を行います。
一定時間、血液の流れが止まるため、提供できる臓器は、腎臓、すい臓、眼球だけです。
一方、「脳死後の臓器提供」では血圧、脈拍、体温、尿量などが安定した状態で保たれます。
そのため、心臓・肺・肝臓・腎臓・すい臓・小腸・眼球の7種類すべての提供が可能で、移植手術後の経過も良いとされています。
臓器移植がもたらすもの
2017年に、脳死後の臓器提供による心臓移植を受けた後藤将理(のぶよし)さん(28歳)に取材することができました。後藤さんの心臓に異常が見つかったのは3歳のときでした。
咳(せき)が続いたため病院を受診したところ、拡張型心筋症との診断を受けたのです。
その後、成長とともに心臓の負担が増え、後藤さんは入退院を繰り返すようになりました。
19歳のときに心臓移植が必要なほど心機能は低下し、補助人工心臓をつけての生活を余儀なくされました。
後藤さんは、移植を待っているときの心境をこう語ります。
「いつ心臓が止まってもおかしくないぐらい悪くなって、死を間近に感じていました。
目を閉じるとそのまま覚めないかもしれないという恐怖から、眠るのが怖かったです。
待機期間も長くなり、諦めの気持ち半分、もっと生きたいという気持ちが半分でした」
移植を待つこと約4年。後藤さんは脳死による臓器提供者とタイプが適合し、移植を受けることができました。
「移植を受けて驚いたのは鼓動の強さ。心臓はこんなに激しく動くのかと思いました。
それまであまり歩けなかったのが、長く歩けるようになり、疲れなくなりました。
さらに仕事もできるようになりました。臓器提供していただいた方には感謝しかないです」
現在、移植を待つ患者さんは、最も多い腎臓で1万4000人、心臓で900人ほど。
すべての臓器を合わせると約1万6000人にのぼります。
海外との臓器提供数の違いはなぜ
日本における臓器提供数が、欧米などと比べて格段に少ない理由のひとつとして考えられているのは脳死の考え方や制度の違いです。
世界の多くの国では、臓器提供とは無関係に、脳死は“人の死”として認められています。
一方、日本では、臓器提供を前提とした場合に限り、脳死が人の死とされるため、家族が臓器提供を承諾すると患者の死を決めてしまうことになります。
さらに、スペイン、フランス、イギリスなどでは、臓器提供することが大前提となっていて、臓器提供しないという意思を示しておかない限り、基本、臓器提供するものとみなされる制度になっています。アメリカでは、多くの州で、臓器提供の意思があるかないかを本人が示すべきであると法律で決まっていて、実際に意思表示をしている人の割合が高いのです。
一方、日本では本人が生前に臓器提供の意思表示をする、もしくは家族が本人に臓器提供の意思があったことを確認して承諾しなければ、臓器提供はおろか、そもそも脳死判定もされません。
課題①「多くの人が意思表示をしていない」
日本の臓器提供における課題は、主に3つあると考えられています。
1つ目は「多くの人が意思表示していない」ことです。内閣府の意識調査で、「臓器提供をする・しないという意思表示をすでにしている」もしくは「意思を表示したことを家族や親しい人と話した」という人は1割ほどでした。
多くの人が臓器提供したいという意思を持っているにも関わらず、大部分は意思表示を実際には行っていないことがわかったのです。
臓器提供の意思表示は、健康保険証・運転免許証・マイナンバーカードなどですることができます。
また、自治体の窓口などにおいてある意思表示カードや日本臓器移植ネットワークのホームページから登録する方法もあります。
移植医療に対しては、さまざまな考えがあり、臓器提供、あるいは脳死を人の死とすることについて、否定的、もしくは慎重な意見の人もいます。
その考えは尊重されなければなりませんが、臓器提供したいという意思を持つ人がもっと意思表示をするようになれば、臓器提供の増加につながると考えられています。
課題②「家族の承諾が必要」
臓器提供するには、家族の承諾が必要なことも大きなハードルになっていると考えられています。
交通事故や脳卒中などで回復の可能性がなく、救命が不可能と判断されたときは、移植コーディネーターから家族に臓器移植の説明があります。
家族が承諾するとはじめて、脳死判定・臓器移植手術が行われます。
このとき、家族は悲しみの中、臓器提供をするかどうかの決断を迫られます。
もしものときに後悔しないために、臓器提供について、家族がお互いの考えを確認しておくことが重要です。
課題③「多くの医師が臓器提供に不慣れ」
脳死からの臓器提供を行う病院は、大学病院や高度な救急医療が行える全国のおよそ900の施設に限られています。
しかも、臓器提供施設として体制が整えられているのはその半数だという報告があります(「臓器移植の実施状況等に関する報告書」令和5年 厚生労働省)。
そのため、多くの医師が臓器提供に不慣れだと考えられています。
こうした状況を変えるため、2019年から病院の連携が進められています。経験がある施設から医師や看護師などの医療者を派遣し、脳死判定など一連の手順を支援する取り組みです。
臓器提供に関わる病院が増えれば、より多くの人の「臓器提供したい」という意思が生かされると期待されています。
https://www.sankei.com/article/20150501-X26G4BQHGVJVPKR3L32KS3AKQY/
より転用しました。