アンガーマネジメントとは?「6秒ルール」などの意味や、診断方法を解説
職場で、家庭で、何かの拍子にイライラしてしまったとき、皆さんはどのように怒りを対処していますか。うまく感情を切替えできずに、不機嫌そうに黙り込んだり、周囲の人や物に八つ当たりしてしまったり……。冷静になった後に、自分の行動を振り返って後悔する人も多いのではないでしょうか。
人間関係や仕事にも影響を与えかねない、怒りの感情。上手に付き合っていくためのトレーニング方法として「アンガーマネジメント」が注目されています。どういったものなのか、すぐに実践できる方法などを詳しく解説していきます。INDEXアンガーマネジメントとは?あなたの怒りのタイプは?アンガーマネジメント診断アンガーマネジメントの簡単なやり方まとめ
アンガーマネジメントとは?
直訳すると「怒りの管理方法」という意味の「アンガーマネジメント」。
怒りの感情と上手に付き合うための心理教育または心理トレーニングとして、1970年代にアメリカで生まれました。
当初は犯罪者のための矯正プログラムなどとして活用されていましたが、時代と共に一般化され、企業の研修などにも取り入れられるようになりました。
怒りのメカニズム
アンガーマネジメントを学ぶ前に、まず怒りがどのように発生するか、そのメカニズムを「ライター」に例えて理解しておきましょう。ライターは、着火スイッチを押すと火花が発生し、燃料であるガスに引火させることで、炎を灯します。
そして、人は自分がこれまで大事にしてきた価値観や理想を裏切られたときに、怒ります。不安や不満などのマイナスの感情や思いがガスのように溜まっていると、自分の中にあった「○○すべき」という理想や価値観が裏切られたときに、着火スイッチが入ります。そしてマイナスの感情が溜まっているほど、怒りの炎が大きく燃え上がってしまうのです。
例えば、あなたが「待ち合わせは5分前集合が絶対」と考えているとします。しかし、約束相手が集合時間を5分過ぎたくらいに到着したらどうでしょう。自分の考えと現実にギャップが生まれ、「遅刻だ!」と憤るかもしれません。また映画など上映時間が決まった予定があれば、余計に待ち合わせ時間への不安に駆られているため、怒りがさらに大きくなるでしょう。
このように、「○○すべき」という強いこだわりと、マイナスの感情・状態の2つがそろうことで怒りは発生します。反対に言えば、どちらかを減らすだけでも、怒りを小さくすることができるのです。
アンガーマネジメントの意味
物を壊したり、相手を怒鳴ったり、はたまた自分を責めたり、攻撃性が強まる激しい怒りの感情。この怒りの破壊的な面だけを見ると、“怒り=良くない感情”と捉えて、抑え込まなければいけないと考えてしまいがちです。しかし、怒りにはもうひとつ、建設的な面があります。例えば、スポーツで負けたときに悔しさや自分に対する怒りをバネにして練習に励むように、怒りは人を動かすモチベーションとしても有効活用できるのです。
そのため、アンガーマネジメントでは「怒らない」状態を目指しません。怒るべき場面では上手に怒り、怒る必要のない場面では怒らなくて済むようにトレーニングをします。怒りを区別し、自分が主体的に感情を選択できるように、一種のスキルとしてアンガーマネジメントを身に付けるのです。
アンガーマネジメントが注目された背景
アンガーマネジメントが注目されるようになった背景に、価値観の多様化があります。
日本がさまざまな価値観やライフスタイルを認め合う社会へと変わっていこうとする一方で、世のなかにはまだまだ、自分が信じてきた価値観以外のものを受け入れられない人が多くいます。そのような人たちが、自分と異なる価値観を持つ人と接する機会が増えたため、怒りを溜めこみやすくなってしまったのです。
もうひとつは、社会全体がパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどのハラスメント防止策に力を入れ始めたことです。上司が部下を叱ると、本人は教育のつもりでも、部下や周りからパワーハラスメントとみなされかねません。先輩や上司から自分が教わった方法や価値観が通じなくなったこと、昔からの習慣から抜け出せないこと、そして叱った結果、部下のモチベーションが下がってチームの生産性が下がることなど、ハラスメントから派生してイライラが生まれやすくなっています。
また防止策に注力しても、完全にハラスメントがなくなるわけではありません。ハラスメントの被害者が、その怒りをまた別の場所で他人にぶつけるなど、怒りが連鎖されていくこともあります。
人はこれまで信じてきた価値観を裏切られたときに怒りを感じやすいものです。そのため、かつての常識が見直され、価値観が変わろうとしている現代社会で生活していくために、怒りをコントロールするスキル、アンガーマネジメントが求められるようになったのです。
なぜアンガーマネジメントが必要なのか(必要な理由・効果)
アンガーマネジメントを身に付けて、怒りを管理できるようになると、怒るか怒らないか自分の責任で感情を選べるようになります。その結果、怒りによって出る衝動的な言動や行動を抑制でき、適切な問題解決やコミュニケーションにつなげられるようになります。
例えば、家庭において、子どもが何度注意しても危ない行為を繰り返すとき、親は頭ごなしに怒鳴ってしまうときがあります。しかし感情をコントロールできれば、怒りをストレートにぶつけるのはしつけに有効ではないと気づき、なぜ行動を繰り返すのか子どもに原因を穏やかに尋ねることができるでしょう。
また、職場においては、仕事を円滑に進めるためにも良好な人間関係とコミュニケーションを築くことが求められます。しかし、突然クレームがきた、部下に頼んでいた仕事がまだ終わっていない、スケジュールが押しているなど、職場はトラブルが起きやすく、イライラが募りやすい場所でもあります。苛立ちは部署やチームにも伝染しやすく、本人だけでなく周りにもストレスを与えるため、コミュニケーションやチームの連携が途絶え、仕事にも支障をきたしてしまいます。
このような事態を避けるためにも、自分の感情に振り回されずに常に冷静に状況を判断するアンガーマネジメントのスキルを身に付けておくと良いでしょう。周りの人も怒りに免疫力をつければ、イライラの連鎖に巻き込まれにくくなります。
アンガーマネジメントを身に付けるメリット
では怒りの感情と上手に付き合うと、どのような変化を期待できるのでしょうか。アンガーマネジメントを身に付けるメリットとして以下6点が挙げられます。
1. 自分の感情を素直に受け止められる
自身の感情をきちんと理解し、素直に受け止めることで、相手にも自分の感情や考えを適切な言葉で伝えられるようになります。
2. ストレスが減少する
怒りは、相手にも自分にも強いストレスを与えるものです。怒りをコントロールできれば、怒るか怒らないか自分の責任で感情を選べるようになります。また、怒りの感情に対する理解を深めて、免疫力を高めれば、相手に怒りをぶつけられても余計なストレスを抱えにくくなります。
3. コミュニケーションを円滑にする
怒りっぽい人は、コミュニケーションがとりづらいものです。アンガーマネジメントを身に付けると、感情ではなく理性的な言葉で伝えようと心がけるようになるため、円滑なコミュニケーションができるようになります。
4. パワーハラスメントを防止する
怒りを相手にぶつけるパワーハラスメントにも、アンガーマネジメントは効果的です。自分が抱いていたさまざまな理想が絶対的ではないことを理解し、怒りを鎮静化させて、適切に伝える方法を学びます。
5. 自分とは違う価値観に寛容になる
自分の価値観や理想が一方的なものであり、絶対的ではないと理解すると、柔軟に物事を考えられ、視野が広がります。すると、他人に対して寛容になり、価値観の違いを受け止めやすくなります。
6. 生産性が上がる
円滑なコミュニケーションや、自分とは異なる価値観の受け入れなどができるようになることで、職場のチーム内でも良好な人間関係を築き、生産性の向上につながります。
あなたの怒りのタイプは?
怒りを覚えるスイッチ、「○○すべき」というこだわりは人によって異なります。それはその人自身の性格や感情の習慣、生活環境、価値観、その日の体調や心理状態などが関係するからです。
怒りをコントロールするには、まず自分がどのようなことを大切に感じ、何をされたら怒って反応するのか知ることが大切です。その参考として、日本アンガーマネジメント協会が公表する「アンガーマネジメント診断」で挙げられる6つの怒りのタイプをご紹介します。
1.公明正大タイプ
正義感が強く、曲がったことが許せないタイプ。マナー違反や社会の規範から外れたことを見聞きすると怒りを感じやすく、人をジャッジしようとしたり、常に正そうとしたりして、物事に介入しすぎる面があります。
2.博学多才タイプ
向上心があり、完璧主義な点があるため、物事に白黒をつけないと気が済まないタイプ。はっきりしないことや人に対してイライラしてストレスを溜めやすく、自分にも周りにも厳しくなってしまう傾向があります。
3.威風堂々タイプ
自尊心が高く、自分の価値観や考え方に対して誇りを持っています。そのため、軽んじられたり、ネガティブな評価を受けたり、自分の思いどおりにならないことがあると不満を抱えてしまいます。
4.外柔内剛タイプ
表向きの穏やかな印象とは裏腹に、自分の意思や決めたルールを重んじるため、ほかの意見や価値観には目を向けない傾向があります。我慢強い一面がありますが、度が過ぎたり自分のルールに反している物事と出会うとささいなことでストレスを感じることがあります。
5.用心堅固タイプ
とても慎重派なので、人とも距離をとって、時間をかけて吟味し、交遊するタイプ。プライベートな領域にズカズカと無断で他人が踏み込むとストレスや怒りを感じます。
6.天真爛漫タイプ
自分の考えや感情を素直に伝えることができ、しがらみなく自由に行動したいタイプ。
意思表示をはっきりできない人や思いどおりに行動できない人に対してイライラしやすく、渋滞など他人によって行動が制限されるとストレスを感じます。
アンガーマネジメント診断
あなたの怒りのタイプを知ることは、怒りをコントロールするための第一歩です。自分の怒りの傾向がどのようなものかを理解すれば、無駄にイライラせずに感情をコントロールすることができるようになります。あなたの怒りがどのタイプになるのか、さっそく「アンガーマネジメント診断」で診断してみましょう。
アンガーマネジメントの診断方法
Q1~12までの質問に対して下記の項目から最もあてはまる回答を選んで、点数をつけてください。
- まったくそう思わない→1点、そう思わない→2点、どちらかというとそう思わない→3点、どちらかというとそう思う→4点、そう思う→5点、まったくそう思う→6点
- Q1. 世間には尊重すべき規律があり、人はそれに従うべきだ。Q2. ものごとは納得いくまでつきつめたいと思う。Q3. 自分がやっていることは正しいという自信がある。Q4. 人の気持ちを間違って理解していたということがよくある。Q5. 性善説よりも性悪説の方が正しいと思う。Q6. 言いたいことははっきりと主張すべきだ。Q7. たとえ小さな不正でも見逃されるべきではないと思う。Q8. 好き嫌いがはっきりしている方だ。Q9. 周りの人が自分のことを何と言っているのか気になる。Q10. 自分で決めたルールを大事にしている。Q11. 人の言うことをそのまま素直に聞くのが苦手だ。Q12. 後先考えずに行動できるタイプだ。
- 次に(1)Q1+Q7、(2)Q2+Q8、(3)Q3+Q9、(4)Q4+Q10、(5)Q5+Q11、(6)Q6+Q12と、6とおりの足し算を行います。一番高い点数だったものが、あなたのタイプです。
- (1)公明正大タイプ(Q1+Q7の点数が一番高かった人)(2)博学多才タイプ(Q2+Q8の点数が一番高かった人)(3)威風堂々タイプ(Q3+Q9の点数が一番高かった人)
- (4)外柔内剛タイプ(Q4+Q10の点数が一番高かった人)(5)用心堅固タイプ(Q5+Q11の点数が一番高かった人)(6)天真爛漫タイプ(Q6+Q12の点数が一番高かった人)
- (出典)一般社団法人日本アンガーマネジメント協会を参考
- 別ウィンドウで「一般社団法人日本アンガーマネジメント協会」のサイトへリンクします。
アンガーマネジメント診断の活用方法
あなたの怒りのタイプがわかったら、怒りをコントロールするために役立てましょう。例えば、あなたが博学多才タイプでしたら、完璧主義であることがイライラする原因になる傾向があります。イライラしてきたら「これくらいでも良いか」という考えに切替えてみると、怒りを防ぐことができます。
「怒る」と「叱る」に違いはありません。目的はどちらも相手に今どうして欲しい、これからどうなって欲しいかを伝えるリクエストです。相手を責めるのではなく、相手にどうして欲しいかを整理してわかりやすく伝えることが怒ること、叱ることの大きな目的です。
次の項目では、怒りを感じても外に出さないで、怒りをコントロールするアンガーマネジメントの具体的な方法を学びましょう。
アンガーマネジメントの簡単なやり方
では実際に日常生活で怒りを感じたとき、どのように対処したらよいのでしょうか。アンガーマネジメントで教えている簡単なやり方の一部をご紹介します。
1.怒りを静める「6秒ルール」
怒りの対処術に共通するのは、「怒りに反射しないこと」です。そのため、自分の怒りを感じたら、まず6秒待って怒りを静めましょう。怒りは完全にはなくなりませんが、幾分か理性的になることができます。6秒数えるとき、「1…2…3…」とカウントするだけでは効果がない場合、「怒らなくても大丈夫」など、気持ちを落ち着けるための言葉を心の中で繰り返すと良いでしょう。また、深呼吸をするのも効果的です。
2.怒りを点数化する
6秒カウントしている間、怒りを点数化するのもおすすめです。平穏な状態を0、人生最大の怒りを10として10段階で怒りに点数をつけます。採点中、怒りを客観視できるので、怒りが沈静化するのを助けてくれます。また、「今日の怒りは3点。この前は5点だったから、今回は怒る必要がないことかもしれない」というように、過去の怒りと比較して、現在の怒りを相対評価することで感情をコントロールできるようになります。
3.怒りがわいたら、その場から離れる
6秒ルールでも怒りが収まりそうにない場合は、その場から離れるのも効果的です。怒りの感情が外に出る前に、トイレに移動したり、飲み物を買いに外に出てみたりしてください。怒りの対象から気をそらすと、冷静になることができます。移動しながら、怒りの感情が湧いたこととは別のことを考えてみるのも気を紛らわすことができます。
4.「○○すべき」という価値観を捨てる
自分の中に「○○すべき」といった理想や価値観へのこだわりが多く、強いほど、怒りが生まれやすくなります。「こうあるべき」「こうするべき」はあくまで個人の理想やこだわりであって、すべての人に通用するものではありません。
そのため、自分の中にどのようなこだわりがあるかを洗いだし、ひとつひとつに「許容できる」「○○なら許容できる」「許容できない」の3段階で許容範囲を分けてみましょう。
「これなら許せる」という条件付きの範囲を少しずつ広げていくと、ストレスを軽減できます。また、どうしても譲れないこだわりは、理解してもらうために、言葉できちんと相手に伝えることが大切です。
これらの怒りを静める行動は、意味がないように思えても日々意識してトレーニングを積み重ねることで、とっさに実践できるようになります。考え方や行動も変わってきますのでぜひ試してみてください。
怒りが起きた記録「アンガーログ」を残す
怒りが瞬間湯沸かし器のように突発的に起き、そのあと落ち着いて冷静を取り戻すと、その時の記憶や感情をはっきり覚えていないことがあります。アンガーマネジメントでは自分が何に対して怒りを感じやすいのか、怒りの記録「アンガーログ」をつけておくことも有効とされています。
今はスマートフォンがあるので、怒りが起きたときにすぐに記録を残すことができます。
記録する内容は「日付」、「場所」、「何があったのか(事実)」、「その時思ったこと」、「怒りの強さ(1~10点)」を、できるだけ起きてからすぐに残すようにします。ここでは詳細に記録する必要はなく、端的に箇条書きでかまいません。また、この時に分析や反省は行わず、事実だけを記載するようにします。
記録することで自分が何に対して腹を立てやすいのか、その傾向が分かるようになります。傾向が分かると、そうならないためにあらかじめどのように行動したらよいかが見えてきます。
例えば、急いでいるのに待たされてイライラすることが分かった場合、余裕をもって行動するようにする、待たされないようにほかの選択肢を考える、などほかに転換する方法や工夫を考えられるようになります。
手段を思いつけば、次に同じ目にあったときはイライラする前にどのように動けばいいかが見えてきます。
また上記の場合では、「時間は守られるべき」といった「こうあるべき」という自分の中にある信念に気が付くこともできます。
講座や資格でアンガーマネジメントを極める
日常で使えるアンガーマネジメントのやり方に興味を持ち、もっと勉強してみたい方向けに専用の講座や資格があります。アンガーマネジメントの応用でイライラを感じにくい体質になれたり、怒りのタイプ別を知ることで、他人への適切な接し方を学んだり、上司の立場であれば部下の叱り方についても学べて、自分だけでなく相手の理解を深めることができます。
このような心理トレーニングのスキルを身につけていくことで、さらなる円滑なコミュニケーションとストレスのない幸せな生活が期待できます。よりよい人間関係を築くために資格を取得してみるのもよいでしょう。
まとめ
アンガーマネジメントは技術的なものなので、練習をすれば誰でも身に付けることができます。大事なのは、知識として終わらせるのではなく、日常生活の中で繰り返し実践していくこと。3日でもアンガーマネジメントを意識して実践すれば、きちんと記憶に残るため、思い出すことができます。そして思い出すことができれば、練習を続けることができます。もし自分の怒りに手を焼いているようならば、ビジネススキルのひとつとして練習してみてはいかがでしょうか。
監修:安藤俊介さんアンガーマネジメントコンサルタント
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事
新潟産業大学客員教授
怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し、教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。
ナショナルアンガーマネジメント協会では15 名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアジア人としてただ1人選ばれている。主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『あなたのまわりの怒っている人図鑑』(飛鳥新社)などがある。著作はアメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムでも翻訳され累計 65 万部を超える。