優しさが仇に…54歳男性が痛感した「介護離職」のどん詰まり【終活スペシャリストの実録】

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優しさが仇に…54歳男性が痛感した「介護離職」のどん詰まり【終活スペシャリストの実録】

竹内 義彦2021.7.12介護介護離職老後不安老後資金終活

日本人の平均寿命は延び続け、世界でも有数の長寿大国となりました。

自身や近しい人の「人生の締めくくり」について考える重要性が、近年高まり続けています。

「終活」にまつわるトラブルの実例とその解決策を「終活スペシャリスト」が詳しく解説します。

 

「介護離職だけはやめとけ」周囲は懸命に引き留めたが

終活準備が足りていないと、どのようなトラブルが起こり得るのか、『物が捨てられない高齢の母、途方に暮れる中年の娘【終活スペシャリストの実録】

に引き続き、具体例と予防策を見ていきましょう。大切な家族につらい思いをさせないためにも、必要な準備があるはずです。

●ケース1 「母親のために介護離職をしなければよかった!」

I彦さんは早くに父親を亡くし、ずっと母親と二人暮らしでした。お付き合いしていた女性もいますが、結婚にまでは至りませんでした。

肩を寄せ合うようにして生きてきた母親が糖尿病からくる慢性腎不全で人工透析をするようになったのは、いまから5年前のことです。

2年前からは透析をしている病院の送迎車に乗るのも大変なくらい病状が悪化。

送迎車は何十人も患者を乗せてそれぞれの家まで送迎するので、乗車時間が長く疲れてしまうのです。

 

I彦さんは母親の残された命は長くないだろうと覚悟しました。そして父親になにもしてやれなかったぶん、母親には心残りのないようできる限りのことをしたいと思い、会社を辞める決断をしました。

周りの人たちからは「それだけはやめたほうがいい」「親は先に逝くものなのだから、自分の人生をもっと考えたほうがいいのではないか」とずいぶん引き留められましたが、I彦さんは聞く耳をもたず自分の信念を貫きました。

 

退職後は介護に専念するも、母親の病状は悪化の一途をたどり、1年後に亡くなりました。

母親が亡くなった当初は、最後の1年間だけでも心ゆくまで介護することができてよかったと安堵の思いでいたのですが、やがてどうしようもない寂しさを感じるようになってきました。ここしばらくまともに誰かと話したことがありません。

思い返してみると会社を辞めてから母親が亡くなるまでの1年半、口をきいたのは母親と母親の病院関係者だけでした。

 

数少ない友人たちに介護のために会社を辞めると話したとき、全員に反対され、それ以来、気まずくなって連絡を取り合うこともなくなっていました。

ここに至って初めてI彦さんは母親を通してかろうじて社会につながっていたこと、そのキーパーソンというべき母親が亡くなったいま、

外界と自分をつなぐものが一つもなくなってしまったことに気づき、愕然としました。

 

I彦さんはまだ54歳。年金が受給できるまでには11年もあります。

母親の存命中は亡くなった父親の遺族年金と預貯金を取り崩しながら生活できましたが、母親亡きいま、父親の遺族年金の受給権もなくなりました。

預貯金はまだ1000万円ちょっと残っていますが、とても65歳まではもちそうにありません。

いますぐにでも働き始めたほうがいいことは分かっていますが、50 代半ばの自分にそうそう仕事が見つかるとも思えないと言います。

周囲の意見を素直に聞いて、介護離職しなければよかったと後悔しているそうです。

 

◆覚えておきたいトラブル防止策◆
介護に関して、家族、特に子ども世代がいちばんやってはいけないのが、「介護離職」です。親御さんの介護をそこまで背負ってはいけません。

介護に疲れて親御さんを手にかけたなど、悲しいニュースを聞くことがありますが、どだい介護を一人で背負うのは無理なのです。

 

親が亡くなったあとも子どもの人生は続いていきます。自分の人生を大切にしてください。

親の犠牲になってはいけません。そうならないために、日本には介護保険という社会制度があります。

一人で背負いきれないのなら「大変なんです!助けてください!」と声に出しましょう。

 

老後のお金に不安があるなら…まず行うべき計算とは

 

●ケース1 「必要な老後資金を早めに試算しておけばよかった!」

 

J子さんは55歳。シングルで結婚歴はありません。両親はすでになく、いまは親が住んでいた家で一人暮らしをしています。

大学卒業後に就職した地方銀行が他行と合併したときリストラの対象となり、以後は地元の中小企業で事務の仕事をしてきました。

 

そんなJ子さんの不安は、老後資金が足りるかどうかということです。一所懸命節約して貯めた預貯金は1500万円程度です。

2020年に100年に一度ともいわれる新型コロナウイルス蔓延による業績悪化の影響もあり、給与もボーナスもカットになりました。

今後も業績が上向く見通しがなく、場合によってはリストラということもあり得るかもしれません。

会社に退職金制度がないため、退職一時金を受け取ることもできません。

 

家族もおらず、安心して老後を送れるほどの貯蓄もない自分の将来はもっと暗くて悲しいものになるだろうと悲観的に考えてしまい、

「もう少し若い頃に必要な老後資金を試算して対策を打っておけばよかった」と後悔しています。

 

◆覚えておきたいトラブル防止策◆

老後にかかるお金については、「年金では生活できない」「年金以外に2000万円が必要」など、心をざわつかせ不安にさせることばかりが聞こえてきます。

とはいっても、実際にいまの自分の生活と照らし合わせてみて、年金予想額での毎月の不足額や、さらには不測の事態のための予備費を加えた、

長いスパンで見た場合の不足額を「具体的に計算している方」はほとんどいません。

ニュースで「足りない」と言っていたから、周りの年金生活者たちが「大変だ」と言っているから、

自分も大変になるだろうと思い込んでいる場合がほとんどです。

 

 

ちなみにこの例のJ子さんは、老後の収支を計算してみたところ、お金を節約しながら生活する習慣が身についているので、

月3万円貯金を切り崩せば生活できることが分かりました。

 

ではその計算法をご紹介しましょう。

 

65歳で退職し、87歳まで生存するとして必要な資金(年金以外)は

 

《36万円(年額)× 22年=792万円》となります。

 

現在55歳のJ子さんの貯蓄額は1500万円。これから10年間働き、少なく見積もって毎年50万円貯めていくことができたとすれば、

65歳時点の貯蓄額は2000万円になります。

 

退職金が出なくても困らないだけの貯蓄額といえるのではないでしょうか。

そこから老後資金792万円を引いても1208万円残る計算です。

 

 

老後のお金に不安がある人は一度、年金額と預貯金の額を合わせて何年間生活できるか計算してみましょう。

足りそうにない場合は長く働けばいいのです。あまり悲観的にならないようにしましょう。

 

 

竹内 義彦

一般社団法人終活協議会 代表理事

終活スペシャリスト

 

 

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